大人になると、ありのままの自分が好きになってくる
大人になると、ありのままの自分が好きになってくる
大学生活を始めるにあたって、最初にしたことは髪を染めることだった。
私の髪は、多くの日本人によくある黒色で、だけど角度によってはちょっとグレーっぽく見える。
学生の頃はこの髪色が嫌だった。
黒くてダサいし、でも中途半端にグレーっぽくって決まらない。
私がダサくてイケてないのも、私をとりまく生活全部がなんか普通なのも、全部髪色のせいにしていた気がする。
しかしながら、当時通っていた高校では髪を染めることを禁じられていて、中には教師からの執拗な指導を覚悟のうえで染めている友達もいたけれど、私にはそこまでの勇気も情熱もなく、だけど、大人になったら絶対に染めるんだと思いながら友人の茶色の髪をうらやましく眺めていた。
卒業して、親元を離れて大学の側に自分の住処をしつらえながら、情報誌で探した最寄りの美容院に、初めてカラーの予約を入れた日のことは忘れられない。
今なら空いてますよと言われて、大慌てで家を出た。
そして髪が茶色になった自分との初対面。
まるで別の人になったみたいだった。
その後もしばらく、朝起きて顔を洗おうと鏡の前に立つたびに、茶髪の自分にビックリした。
髪の色が軽やかなだけで、どんな服も似合う気がしたし、自分がちょっと素敵になった気がした。
あれから10年以上経って、茶髪、金髪、赤髪、グレー、と色んな色の髪を楽しんできた私は、今は自分の元の髪の色で暮らしている。
理由は単純明快で、自分のもともとの髪の色が、今は一番素敵だと思うからだ。
娘を妊娠中になんとなく髪を染める気にならず、久々に地毛の色で過ごしていた時。
街中でふと鏡に映った自分の髪の色がとてもオシャレに見えた。
黒くてつやっとしてて、光の加減でちょっとアッシュ系に見えたり。昔はダサいと思っていた髪が、あれれなんかちょっと良い感じじゃない?って思った。
そしたらその後会った友人に、「黒髪いいね、似合うよ」って言われて、単純な私はもう一瞬で自分の髪が好きになった。
それ以来、髪を染めずに1年以上経つ。
今でも鏡に映る自分を見るたびに、髪いい感じって思う。
こういうことが私にはよくあって、以前は嫌いだった自分の体のパーツが、歳をとるごとに好きになっていることに我ながら驚いている。
痩せ型で恥ずかしいほどガリガリだった手足も、今では「この方がスタイルよく見えるよね」と割り切れるようになった。
二重幅が大きくて存在感のあり過ぎると思っていた目元も、この薄い顔面ならこれくらいの方がバランスが取れていいかもと思えるようになった。
そうして段々そのパーツが好きになって、今ではこのすらっとした手足が好きだし、この目が好きだ。
これって慣れてきたってことなのかな、自分の体に。
私の場合は10年も20年もかかってようやく自分の体に慣れてきたってことなのかもしれない。
どうせなら、最初から自分好みの体で合ってほしかったし、せめて数年くらいで慣れてくれれば、あんな憂鬱に学生時代を過ごすこともなかったのにっていう恨み節も出てくる。
だけど、結局のところ、嫌だなと思う時間も、他の誰かをうらやましく思う時間も、あれこれ試行錯誤して嫌いなところを隠したり誤魔化してみたり、そういう諸々の時間があっての、いまこの時だと思うのだ。
今はこの黒髪が好きだけど、実はこっそり狙っていることもあって、黒髪に飽きたり白髪が目立つようになってきたら、今度はうんと派手な色に染めるのもいいかもしれないなんて思ってる。紫とか、真っピンクとか。
それに、真っ白な白髪のおばあちゃんにも憧れている。
憧れは尽きない。いくつになっても。
学生の頃は自分のあれもこれも、全部嫌だと思ってしまう。
あの子のようなスタイルだったら、あの子みたいな整った顔だったらって思う。
だけど、大人になるにしたがって、そんな自分のこともどんどん好きになれる。
好きになると大事にできる。
自分を大事にできると、毎日が楽しくなる。
大人になるって本当に楽しくて幸せなことなんだね。