【今週のお題をやってみる】心温まるマナーの話
新幹線での思い出
まだ言葉がうまく使えないくらい幼かった息子と二人で新幹線に乗った時の話です。
幼いながらも乗り物好きを発揮する息子は新幹線に乗るといつも興奮してしまうので、いつもなるべく空いている平日のお昼に乗っていました。
その日も、二人掛けの席の窓際に座り、窓に顔をひっつけんばかりに外を見る息子。
青い空をバックに流れ去る景色を見るのは、私もとても気持ちよかったです。
と、ふとトンネルに入って、真っ暗になりました。
すると息子がにやにやしながら私の脇腹をつついてきます。なんだろうと思って聞いてみると、暗い窓のガラスに映る自分の姿を指さし。
普段トンネルに入るとつまんなそうにする息子は、たぶんその日初めて「窓ガラスに映る自分」を見つけたんだと思います。
自分と全く同じ顔で同じ動きをするのがとても面白かったらしく、きゃっきゃと喜ぶ様子はとても微笑ましかった。
そのうち自分の姿のさらに奥に、私の姿も見つけて、トンネルに入るたびに窓ガラス越しに手を振ってくれました。
そんな感じでハイテンションになる息子を諫めつつ、手を振りつつ過ごしていたとき。
多分あと少しで目的の博多駅に着きそうな頃、またトンネルに入りました。
息子と揃って窓ガラスに目を向けると。
息子の横に座る私のさらに奥、つまり私たちの座席から通路を挟んで向こうに座るスーツ姿の男性が、私たちに向かって手を振ってくれていたんです。
思わず二人同時に振りかえると、私より一回りくらい年上に見えるその男性は優しく笑ってくださいました。
息子ははにかみながら手を振り返し、私はなぜかとても恥ずかしくて照れながら会釈をするのがやっとでした。
その男性はそのあとすぐに席を立って出口に向かわれたので、言葉を交わすことはおろかご挨拶することもできませんでしたが、私は新幹線を降りてからもずっと一人でにやにやして何だかとても幸せな気持ちでした。
マナーって、相手の人に幸せな気持ちを分けてあげることでもある
乗り物や公共の場でのマナーというと、ほかの人に迷惑をかけないとか、困っている人を助けるっていう話が多いように思います。
もちろんそれもとても大切なことだけど、それだけじゃなく、居合わせた周りの方に少しだけ幸せな気持ちを分けてあげるっていうのも、とても素敵なマナーになるんだと、このスーツ姿の男性に会って気づきました。
スーツ姿ということは、多分お仕事での移動だったんだと思います。もしかしたらその時もお仕事をしていたのかもしれない。疲れていて少しでも休みたかったかもしれない。
そんな時に、通路を挟むとはいえ同じ列にキャーキャー騒ぐ親子がいて、内心は静かにしてほしいと思っていたかもしれません。
子供とともに生活するようになって、子連れだからといって必ずしも大らかな気持ちで接してくださる時ばかりではないことは身に染みています。たくさんご迷惑をかけている自覚もあるので、せめて大声で騒ぎ続けたり物を汚したりはしないように、トラブルはなるべく事前に避けるように、気を付けているつもりです。
そんな風に無意識に気を張っている中で、窓ガラス越しに手を振ってくださった優しさが、私にはとても嬉しかった。
それ以来、例えば電車に乗っていてお向かいの方と目が合ったとき、それまではサッと目をそらしていたのを、なるべく口角を上げて会釈をするようになりました。
それで相手の方に幸せが届いているのかはわかりませんが、たいていの場合、相手の方もちょっと笑顔になってお辞儀し返してくださいます。
言葉はなくとも、二人の間に優しい空気が流れるように思います。
乗り物でも、駅やお店の中でも、偶然居合わせたご縁を感じながら、周りの方にほんの少し幸せを届ける。そんなマナーが増えていったら、とても素敵なことだなと思っています。